【1学期の愛徳生 2024】

 毎週月曜日に更新している校長室の前の名言コーナーについては昨年も何度か話題にしました(2023年9月22日参照)が、先日ある先生がその感想を直接言葉で伝えてくださいました。「いつもタイムリーですね」からはじまって「あれはどういう基準ですか」「どこから引用しているのですか」「いつからやっておられるのですか」など、とにかく質問攻めでしたので、ここでも少し答えておくことにします。

 担任をしていると、短い朝礼ではその日言わねばならない連絡事項や確認事項が多すぎて、ついつい事務的高速スピードになったり、その日伝えたいメッセージが中途半端になって結局何が言いたかったのかわからなくなったりすることが悩みのタネでした。それに朝から一気にあふれるほどの情報を投げかけられても生徒たちはしんどそうにしているばかりです。さらにお説教みたいな注意事項を言われると、せっかくのさわやかな朝なのに気分が悪くなりますし、言う方もエネルギーを消耗します。とにかく指示は的確に、シンプルにした方が生徒も動きやすいので、その日の流れと簡単な連絡は黒板の右端に書いておいて朝礼までに見る習慣をつけさせ、朝礼の時間は読書や自習、担任のありがたい言葉を聞かせる時間を最優先しました。特に重要なことがらや締切日の提出物がある時は黒板の中央に最大級の文字で書いておきます。こういうことを続けていますと生徒とのコミュニケーションが増え、生徒のこともよく見えるようになりました。そのうち自分の思いをもっとうまく伝える方法はないかと考えていると結局メッセージも黒板に書いて、それを登校した生徒から味わっておいてもらうのが非常に効果的ということに行き着いたのです。そうするとその日伝えたいメッセージ、たとえば体育祭などの行事日であれば一致団結することの尊さが伝わることば、テストなら励みや努力につながる内容、というふうにどんどん発展していきました。残念ながら凡人の私の言葉では深みはないし、説得力にも欠けるので、ここは偉人の力を借りることにしたのです。例えば定期考査中の朝礼で「最後まで時間を使ってしっかりやりなさい。何度も見直して時間を無駄にしてはいけません」などと決定的に正しいことを言ったところで生徒はあまり真剣に聞いていないものです。しかし、「闘いの勝利は最後の5分間にある(byナポレオン)」と書いておいて、「みなこれを見よ。歴史上超有名な人物もこう言っているぞ。最後まで集中を切らしてはいけないのだ」と大げさに紹介すると、さっきまで必死に教科書を眺めて私の方を見向きもしなかった生徒が「ふうん」という顔になるのです。それに毎日ソクラテスやプラトンの言葉を書けば3000年にわたる歴史上の偉人たちが私のバックについているわけですからこれはもう誰にもかなわない力を手にしているのと同じです。私に反抗してもデカルトやパスカルには勝てません。

 毎日更新すると生徒たちも徐々に私のペースに慣れていきますので、お互い心地よいし楽しいことこの上ありません。たまに前日のまま更新を忘れていると「先生、今日の名言は昨日と同じですよ。疲れているのですか」だとか、「かわりに私が書いてあげましょうか」などという生徒も出てくるのです。

 とにかくそういうわけでこれは大変効果的なHR経営の技なのですが、ただの引用で終わらせるよりは、名言を自分の心と体で消化して、その言葉を放った人物や背景を調べたり、書物を読んだりすると、言葉にも力強さが出てきます。そのうち自分の哲学を語れるようになったらワンランク上の利用法になるでしょう。

 感想を書いてくれた人には返事を書いています。先日大村さんと杉本さんに返事を書いて教室にもっていくと「やったー」と喜んだ笑顔には屈託がありません。下校時にエントランスで生徒たちを見送っていると、部活帰りの牛田さんと山道さんがやってきて私の前に立つと、いきなり声を合わせて「知るだけでは不十分である。活用しなければならない。意思だけでは不十分である。実行しなければならない。レオナルド・ダ・ヴィンチ。」と言うのです。その週の名言です。校長室の前で立ち止まって言葉を覚え、わざわざそれを私に伝えに来てくれるとは、なんとも素敵な話ではありませんか。(校長 松浦直樹)