【生徒の声】

 7月から校長室の前に毎週の名言コーナーを設置するようになったことは9月22日の『愛徳ライフ』で紹介しましたが、2学期になっても感想が寄せられています。名言の更新は毎週月曜日。すると、その日のうちに必ずコメントを書いて『想いの箱(AITOKU BOX)』に入れてくれる二人組がいたりします。これは私にとってもささやかな楽しみの一つです。そんなある日の夜、『想いの箱』を校長室に片付けようとすると中に紙が入っていることに気づきました。生徒が活動中の時間帯には入っていなかったので、きっと下校時にそっと入れたのでしょう。その週の名言はユネスコ記念日にちなみ、その前文から「戦争はひとの心のなかで起こるものであるから、人の心に平和のとりでを築かなければならない」を選びましたが、彼女のコメントはこうです。

 「私が生まれた時代はほとんどなかった戦争が、今や“普通”の一部となりつつあるこの現状には危機感を抱かずにはいられません。相手のことを理解し、知り、受け入れること。それはなんでも分類したがる私たち人間には困難なことかもしれませんが、歩みよる努力をする人間でありたいと感じました。」

 

 そしてさらに彼女は、私がカンボジア大虐殺について紹介したルオン・ウンさんの『最初に父が殺された』を読んだあとの感想も書いてくれました。それはこうです。

 「何度も登場するあまりにも残酷な描写の数々、読み終えるにはかなりの精神力が必要でした。しかし私がそれでもこの本を最後まで読む選択をしたのは、今の時代を生きる私たちにとってこの本は目を逸してはいけないものであるとわかっていたからです。戦争をするということは、遠目から見れば国と国が争うというそれだけですが、近くで見ると多くの市民が死ぬことを指しています。『最初に父が殺された』の文章からは戦禍を必死で生き抜いた人の叫びが聞こえてくるようでした。高校生のうちにこの本に出会えたことを私はとてもありがたいことだと感じています。卒業後、社会に出て働くとき、この本は私にいつも平和の大切さを教えてくれるでしょう。そして私は平和の実現に向けて行動できる人間でありたいです。本のご紹介をありがとうございました!」

 

 どうですか。この最後の「!」が素敵ですね。1970年代のカンボジア大虐殺は狂気の沙汰で、これはおおよそ人間のしたこととは思えないほど凄惨なものでした。まさに生き地獄です。私は実際に現地に足を運んだ話を2学期のはじめに『ホアキナ通信第4号』で紹介しました。この生徒は、1学期のグローバル・スタディーズの授業から始まって、2学期最初の『ホアキナ通信』も含めて、ゆっくりと準備を進め、カンボジアについての知識を深め、この本と向き合うことに至ったのです。そして読んだ後、マイナス面で落ち込むのではなく、希望の未来へ繋ごうとの決意を新たにしているのです。なんという感性でしょう。これこそが学びなのです。そして、私はこれからの未来も捨てたものじゃないと思えました。なぜなら、こんなに頼もしい若者が、この愛徳学園で確実に育っているのですから。(校長 松浦直樹)